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免疫介在性溶血性貧血(IMHA)

今回は知っておきたい血液疾患を一つご紹介します。疾患名は「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」です。

メンエキカイザイセイヨウケツセイヒンケツ・・・?珍しい病気なので初めて聞いたという方がほとんどではないでしょうか。

これは体が自分の赤血球を異物とみなし、壊してしまうことで貧血になってしまう病気です。猫よりも犬では多い病気です。

貧血および血栓症で、死に至る可能性が高いこの病気ですが、早くこの病気のシグナルに気づくことでみなさまの大事なわんちゃんねこちゃんを助けることができます。

それではこの病気について詳しく説明していきます。

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)とは?

病態

自分の赤血球に対する自己抗体が産生されることで赤血球が破壊されてしまいます。

自己抗体が赤血球に付着することで脾臓でマクロファージに貪食されてしまう場合(血管外溶血)や、血管内で赤血球に穴が空いて壊されてしまう場合(血管内溶血)の二つがあります。

分類

IMHAには、

  • 基礎疾患が無く原因が不明の非関連性IMHA
  • 基礎疾患から引き起こされている可能性が高い関連性IMHA

に、大別できます。

非関連性IMHA

 細かく分類すると特発性IMHAと潜在性IMHAとに区別できます。前者は基礎疾患が全く併発していない場合で、後者は今のところ基礎疾患が見当たらないが、いずれ研究が進み何か原因が見当たる可能性がある場合を意味します。 犬ではこの非関連性IMHAが圧倒的多く発生し、猫でも大多数がこれに分類されます。

関連性IMHA

細かく分類すると二次性IMHA、偶発的IMHAとに区別できます。前者は基礎疾患によって引き起こされたIMHAを示し、後者は偶発的に基礎疾患が見つかっている場合を意味します。 猫では二次性のIMHAが全体の約3割程度を占め、注意が必要です。

ポイント

特発性とは違い、二次性(特に猫)では基礎疾患が存在するので診断を慎重に行います

原因

非関連性IMHAの原因は感染、炎症、ワクチン、腫瘍、一部の薬剤が関与していると言われています。

1.感染

犬…Babesia.gibsoniなど
猫…Babesia.felis 、Mycoplasma.haemofelis、FeLV(猫白血病)など

2. 炎症性疾患

膵炎など

3. ワクチン

IMHA発症30日以内の接種で関与が疑われる

4. 腫瘍

十分なエビデンスは存在しないが、猫ではリンパ腫と併発することがある。

5. まれではあるが、セファロスポリン系の抗生剤など。

十分なエビデンスは存在しないが、猫ではリンパ腫と併発することがある。

ポイント

東京ではバベシアなどの寄生虫感染はほぼ見られないですが、西日本などに住んでいた、旅行歴がある場合には要注意です。特に猫では外に行く子に関してはリスクが高いので要注意です。

IMHAを診断するには??

赤血球の凝集の確認には「血球凝集試験」という試験を行います。

IMHAでは再生性の貧血を呈することが多いことに加えて赤血球の凝集が認められますが、肉眼的に凝集する場合や、顕微鏡でしか見えないこともあります。

また犬では球状赤血球という赤血球の膜が引きちぎられて小型に見える赤血球が出現がします。猫でも出現しますが、正常の赤血球との区別が困難なので、診断には用いません。

球状赤血球が出現する疾患として

  • タマネギ中毒など酸化障害 
  • 毒物
  • 脾臓機能亢進症
  • ピルビン酸キナーゼ欠損症 
  • 赤血球を分断してしまう病気(血管肉腫など)

も含まれるのでこれらの疾患を除外する必要があります。

また、赤血球が溶血し中身が出て膜だけになったゴーストセルと呼ばれる赤血球が見られることがありますが、これは血管内溶血で顕著に確認できます。

このようにまずはIMHAで出現する特徴的な血球を確認することが重要です。その上で血液生化学検査でT-bilの増加、尿検査でビリルビン尿や血色素尿などの溶血の証拠を確認します。

また、赤血球への自己抗体を検出するクームス試験も行いますが、IMHAの検出感度は7割程度と言われています。これら諸々の証拠を揃えたのち、他に貧血を引き起こす疾患が除外されるされるならばIMHAを診断します。

2019年にACVIM(米国獣医内科学会)から共同声明が出されており、ここで示されている診断フローチャートも有用です。

また、レントゲン検査、超音波検査、感染症検査などでIMHAなどの原因となりうる基礎疾患を探索し、なければ特発性IMHA、存在する場合は二次性IMHAとして診断します。

このようにIMHAの診断には種々の証拠を同時に揃える必要があり、その診断には慎重を要します。

ポイント

IMHAを疑診した場合は他に貧血を引き起こす疾患を除外する必要があります。また、特発性IMHAと二次性IMHAでは治療方針や予後が大きく異なるので、一番初めの診断が重要です。基礎疾患の探索には全身精査が必要です。

IMHAの治療って?

1.免疫抑制療法

IMHAでは自己免疫性疾患のため免疫抑制薬を用います。

免疫抑制薬の第一選択はステロイド剤となります。第二選択薬としてはシクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制剤を併用することがあります。

免疫抑制療法の反応が乏しい場合は、免疫グロブリン補充療法を選択する場合もあります。

2.血栓予防

IMHAでは重度の炎症のために全身に血栓が生じやすくなりますが、特に肺に血栓ができる肺動脈塞栓症という血栓症を併発します。

この血栓症が原因となる肺動脈塞栓や DIC(播種性血管内凝固症候群)が死亡例で認められており、IMHAと診断したら免疫抑制療法と同時に抗血栓療法を行います。

3.基礎疾患の治療

バベシアなどの感染症が併発している場合はドキシサイクリンといった様な抗生剤を使用するなど、基礎疾患に合わせた治療を選択します。

4.輸血

貧血による低酸素に伴う臨床症状を呈している場合には輸血が推奨されます。しかし、輸血には副作用がありますので、慎重に行います。

IMHAの予後は?

犬の致死率は約50~70%で、猫では20%ほどと言われています。

実際の症例

猫、雑種、7歳、去勢オス

三日前から目がしょぼしょぼするとのことで来院されました。

問診では食欲不振があるとのことでしたので、詳しく身体検査を行うと口腔粘膜の蒼白と、脾臓の腫大(触れた位置から推定)が認められました。

この時点で貧血が疑われたため全身精査を実施しました。

血液検査の結果から重度の貧血があることがわかりました。ただし、貧血は非再生性貧血(正球性正色素性)でした。また、FIV、FeLVは陰性でした。T-Bilは正常値だが高め、ASTも高値を示しておりました。

血液塗抹検査では赤血球の凝集とゴーストセルが散見され、血球凝集試験は陽性でした。

レントゲンおよびエコーでは脾腫が認められましたが、それ以外には特筆すべき異常はありませんでした。同時に脾臓のFNA(穿刺吸引細胞診)も行いましたが、腫瘍細胞などは確認されず髄外造血が第一に疑われました。

クームス試験は陰性でした。完全室内飼育だったため、感染症の検査は行いませんでした。

以上のことから非再生性貧血であるものの、併発疾患は見つからず血球の凝集が強く認められることから特発性IMHAを疑診し下記のように治療を行いました。

  • プレドニゾロン(免疫抑制療法)
  • シクロスポリン(免疫抑制療法)
  • ダルテパリン(抗血栓療法)
  • オメプラゾール(胃酸抑制)

経過

治療に良好に反応し、診断後48日後にはPCVは正常値まで回復しました。その後退院し、投薬により良好にコントロールできています。

まとめ

免疫介在性溶血性貧血を発症してしまうと可視粘膜蒼白などが身体検査で見つかりますが、おうちでこれを発見するのは困難です。

本症例の猫ちゃんのようにただ食欲不振しかないように見えることもあります。従って、いつもより元気ないかなぁ?食欲が減ったかな?と普段の様子との違いに早く気付き、そして診察をいち早く受けることが何よりも重要になります。

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